私は高校生の頃、寮生活をしていた。と、人に話すと「ハリーポッターみたいじゃん!」 とか、「花ざかりの君達へ、みたいな感じ!?」などといってうらやましがられるが、断じてそんなことは無かった。まず設備からして、冷蔵庫、クーラー、テレビの三無い生活で、それを補うためクリエイティブな毎日を送っていた。例えば、冷蔵庫。

私は冷蔵庫を、先輩と自作していた。寮生活は2人1室で、他学年と組まされることになっており、2年生の頃いよいよ冷蔵庫無しの生活が限界に達したため、先輩と2人で協力して製作する運びとなった。といっても、一からではない。寮の職員室には冷蔵庫があり、運動部の生徒の為に、保冷材や氷のう用の氷は冷やしてもいいことになっていた。そのため、冷たさをなるべく持続させるような箱を作り、朝晩交代で保冷剤を交換することになった。

材料は、ホームセンターでそろえた、発泡スチロールの箱と、保冷バッグ。発泡スチロールの箱に保冷バッグを切って貼り付けただけの簡単なものだったが、これが意外と冷えた。手作り冷蔵庫により、309号室の食生活の幅は広がり、ゼリーやら牛乳やらを冷やすのに活躍したのだった。それにしても、原始的すぎる。氷を交換して温度を保っていた昔の木製の冷蔵庫を思い出した。あのとき、発明をした気分でいたが時代に逆行していたのは間違いない。

そして寮の冬の思い出といって、一番に思い出すのは真冬に見た流星群である。時期になると、誰かが「今日は〇〇流星群だよ」とか「〇時頃が見ごろだって」と教えてくれて、よく皆で見た。女子高生が流星群を楽しみにしているなんて、本当にやることがなかったんだな、と思う。まぁ、テレビも無いし携帯もガラケーだったし見るものといったら星くらいしか無かったのだ。12月半ばのふたご座流星群は、部屋の電気を消して窓を全開にして、震えながら見た。

目を離した隙に流れてしまわぬよう、オリオン座の下あたりを見つめながらじっと待つ。狭い部屋に6人も集まり、定員オーバーの窓枠から身を乗り出して、首が限界になったころ、やっと流れた。左から右に、針でピッとひっかいたような細い線が一瞬見えた。私はそれまで、長野に住んでいながら流星を観たことがなく、「本当に流れ星ってあったんだ!」という新鮮な気持ちになった。河童や人魚と同類だと思っていたので。

ところで寮生活を語るうえで、欠かせない存在は「先輩」だと思う。特に入学したての1年生のころは必要以上に気を遣い、友達に用事があって部屋から出てきてほしい場合、ノックではなくて、「外で咳をしたら出てきて」などスパイのような取り決めを本当にしていた。3年生の先輩方は個性的な人が多く、中でも一番すごかったのが壁中ヴィジュアル系バンドのグッズとポスターとでびっしりな先輩だった。普通のピアスに加え、舌ピアスまで空けていた先輩は、厳しめの校則とダサめの制服で有名だったうちの高校では異色の存在だった。

先輩の部屋は、3年生のたまり場になっていてしょっちゅういろんな人が出入りしていた。そんな恐ろしい部屋に呼び出されたことがある。夜は9時半を過ぎると他室訪問禁止なのだが、呼ばれた時間はとうに9時半を過ぎており、先輩に「ちょっといい?来てくんない?」 と言われたときは(なんだか知らないが、終わったな…)と思った。部屋に入ると、3年生が3人ほどと、同室の1年生がいた。(なに言われるんだろう…)と思っていた矢先、差し出されたのは顔ほどもある12個入りの巨大マフィンだった。

「お母さんがさ〜コストコで買って持ってきてくれたんだけど食べきれなくってさぁ。 あげるよ」ってそれもっと早く言ってください先輩!どうやら、同室の1年生と私の仲が良かったから白羽の矢が立ち、呼び出されたらしい。ヴィジュアル系バンドのポスターと、同室の子の貼ったアイドルのポスターと、先輩方と友達と、私。すごい人口密度の中で(何事も無くて本当に良かった…)と安堵しながら食べた、マフィンの味は忘れられない。

やはり寮生は同じ釜の飯を食べている中なので、互いの食の好みは熟知していた。未だに、 〇〇はチーズがだめで、●●は白飯ばっかり食べていたなぁ、とか思い出してしまう。嬉しかったのは、友達がミスタードーナツに行った時のお土産。私はいつも同じものばかり買ってしまうのだけれど、それを覚えていたらしく、「あんたはコレでしょ?」と当然のようにゴールデンチョコレートをくれた。ドーナツそのものも、もちろんうれしかったけれど、「知ってくれている」ということが家族のような暖かみを感じて嬉しかった。

4月まで雪が降るような寒冷地で、田舎なので近所に遊べる場所も無く、長期休みの時く らいしか実家に帰れなくても、あの3年間が暖かくにぎやかな思い出なのは、友達や先輩のおかげだと思う。家族も知らない秘密を共有したり、テスト前なのに集まって何時間もしゃべり倒したり、クリスマスパーティーや誕生日会をしたり、記憶の中にはいつも誰かがいた。

来年の4月から私は就職して社会人になる。きっと、休日の予定が合わないうえに、距離が邪魔して友人ともなかなか自由に会えなくなるのだと思う。もう、ドアを開けたらすぐ友達がいる、なんて生活を送ることはないんだろうな、と思うたびあの日々を共有してくれたひとたちを懐かしく思い出すのだ。



22歳の服飾専門学生。趣味は、映画鑑賞と読書です。
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