「変な人に捕まらんように、気ぃつけてな。ほんまにいける?」
「いけるいける!」

その日、電車も1日の役目を終えて回送している頃、友達に心配されながら私が1人で向かったのはクラブだった。2017年が始まったばかりの寒い冬の日。目的地に着くまでの道すがら、ダウンジャケットを着て明るい笑顔をはりつけた男が「お姉さん、相席屋どうっすか?」と聞いてくる。どうっすかって何だよ。金色にしたての髪で目を隠して、男を無視したまま突き進む。

夜遊びなんてしたことがなかった私は、布団の中で静かに朝を迎えることにウンザリして、気がつけばGoogleで“DJ 有名 イベント 女1人で”と検索していた。自分なりに吟味して、とある前売りチケットをネットで買った。1人でバンドのライブに行くことはチラホラあるから、特に抵抗はない。真夜中の選択肢が増えたことに、少し興奮していた。

「おもしろくない。何これ、帰りたいわ。でも終電ないし最悪や。」

Nice to meet you, Dance floor.
今となっては大好きなクラブの、初めの印象はこうだった。まず踊り方がわからない。でもネットで読んだ“女の子が1人でクラブに行くならキョロキョロしないこと。男に声をかけられるのを待っているように見えるよ!堂々と振る舞うのがベスト”なんてどうでも良い心得を変に意識しすぎて、密かにあたりを見回した。

隣の男女数人が何やらやけに小さいグラスで乾杯して同時にお酒を飲んでいる。自分のペースで飲めよ。目の前にはこの時期に半袖の女の人がいる。寒くないのかよ。バーカウンターはフロアよりも人が多い。落ち着きたいからトイレ行こう…と思ったら何だこの配色がウルさいトイレは!私の居場所はここにない。布団と、窓から覗く静かな空が恋しい。時計を見れば間もなく25時を迎えようとしていた。

よほど顔が暗かったのか、1人でフラフラしている私に声を掛けてくる人はキッパリいなかった。それに服装もタートルネックのニットにハイウエストのゆったりしたパンツ。化粧だってほとんどせずに、唇にも最低限の潤いしか与えなかった。メスの感じを出してしまえば殺されるとでも言わんばかりに、私は“お持ち帰り目的のチャラい人間”に怯えていた。

でも。“ナンパとか嫌やしお酒も別に必要ない”のに私はクラブに来た。音楽を求めて。勇気を出して未知の領域に足を踏み入れたんだ、誰にも頼らずに1人で。しかも実際怯えているような人間とは接触がない。だったら?楽しむしかない!!

開き直って目を閉じて、音楽を聴くことに集中する。ドン、ドン、ドン、ドン。お腹のあたりに一定のリズムが刻まれていることに気づく。目を開けて、また見つけた半袖の女の人をじっと見つめる。彼女は音に乗っていた。マネして足を少し動かす。たくさんの音が耳に届く。さっきとはまた違う男女数人が乾杯する。意味のない笑い声すら音楽になる。

「あれ、何これ。楽しいかもしれないぞ。」

そう思い始めて私の表情が花ひらき、冬の寒さを忘れ始めた頃、フロアがどっと沸いた。その日の主役であるアーティストが登場。いつの間にか人で溢れているフロアの真ん中で、私は思い切って手を上げて主役を歓迎した。あの半袖のお姉さんは、独自のダンスに没頭している。

浮き足立った気持ちでバーカウンターに行くと一際楽しそうな男女がいて、つられて笑ったら何の見返りも求めずにお酒を奢ってくれた。「すごい、これがクラブのノリかぁ」なんて感心していたらもう一緒に踊っていて、前から友達だったかのように肩を組んで笑い合っていた。音に導かれている間は、息を吐く暇もない。そもそも呼吸が不要に思える。

金色の髪を揺らす。鏡に写る自分が艶めく。まだ青を知らない空は、何も言わずに見守ってくれていた。

カラフルなネオンに照らされた、たくさんの横顔が全て友達のように思える空間。他人のリズムを愛おしいと思うことが今まであっただろうか。

私はこの日、確実にクラブにハマった。自分のダンスも、あなたのダンスも愛してる。


Kotono Utsunomiya
BGMzineの編集長としてzineを作っています。次号のテーマはLGBT一択です。ガールカルチャーを敬愛。ライターとしてご飯を食べていくことが目標。趣味は映画館で映画鑑賞。私と一緒にクラブに行っても良いと思ってくれた方からのご連絡もお待ちしております。
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